中小企業の事業承継では、経営者の高齢化や認知症リスクによって、会社の株式や事業用資産の管理が滞ることが大きな課題となっています。 こうしたリスクに備える方法として、近年注目されているのが 家族信託(民事信託) です。

家族信託とは、「自分の財産を信頼できる家族に託し、あらかじめ定めた目的に沿って管理・運用してもらう仕組み」です。
法律上の正式名称は「民事信託」であり、そのうち“家族が受託者となる信託”を一般的に「家族信託」と呼んでいます。

家族が受託者となることで、財産管理を柔軟に行うことができ、認知症対策や事業承継など、従来の制度では対応しにくかった場面でも活用できる点が大きな特徴です。

事業承継の場面では、特に次のような点で大きな効果を発揮します。

◎家族信託が事業承継に向いている理由◎

① 経営者が認知症になっても会社が止まらない

株式を信託しておけば、経営者の判断能力が低下しても後継者が株式を管理できます。 → 会社の意思決定が止まらず、事業の継続性が確保される。

② 生前から段階的に承継を進められる

遺言では「亡くなった後」の承継しかできませんが、 家族信託なら 生前から後継者に権限を移し、実務に慣れてもらうことが可能 です。

③ 成年後見制度ではできない柔軟な管理が可能

成年後見制度は財産保護が中心で、事業の積極的な運営や株式の売却は原則できません。 → 家族信託なら 事業の実情に合わせた柔軟な財産管理ができます。

④ 会社の資産・不動産も一体で管理できる

事業用不動産を信託財産に含めることで、 後継者が一体的に管理でき、事業承継がよりスムーズになります。

◎家族信託のデメリット◎

家族信託は非常に有効ですが、次の点には注意が必要です。

① 契約設計が複雑になりやすい

事業承継では株式や議決権の扱いなど検討事項が多く、専門家の関与が不可欠です。

② 受託者(後継者)に一定の責任が生じる

信託財産の管理義務があるため、家族間でも説明責任や事務負担が発生します。

③ 税務判断が必要な場合がある

贈与税・相続税などの検討が必要になるケースがあり、税理士との連携が重要です。

<事例> 経営者の認知症リスクに備えた株式管理のケース

製造業を営むA社の社長(70代)は、会社の株式をすべて個人で保有していました。 同年代の経営者が認知症を発症し、株式が凍結して会社の意思決定が止まる事例を耳にし、不安を感じていました。
そこで社長は、後継者である長男を受託者とし、株式を家族信託に移すことにしました。

家族信託の仕組みと流れ

A社社長(委託者)
↓↓
・ 株式を信託・
長男(受託者)
↓↓
・株式管理・議決権行使・
【会社の意思決定が止まらない】
↓↓
【将来の事業承継がスムーズに進む】

信託の設計内容

委託者 :A社社長
受託者 :長男
受益者 :A社社長(生存中)
株式から生じる配当などの利益を受け取る ※
信託財産:A社の株式
目 的 :会社経営の安定と円滑な事業承継

※ 受益者であるA社社長は、生存中はこれまでどおり会社からの利益(配当など)を受け取ることができます。 つまり、株式の管理権限は後継者に託しつつ、株式から生じる経済的な利益は引き続き
社長本人が受け取る仕組みになっています。
      家族信託では、管理する人(受託者)利益を受ける人(受益者) を分けることができるため、 「経営の安定」と「社長自身の生活の安心」を両立できる点が大きな特徴です。

信託後の効果

① 認知症になっても株式が凍結しない
② 後継者が生前から経営に関与できる
③ 成年後見制度ではできない柔軟な管理が可能
④ 経営停止リスクを回避し、承継準備が整う

まとめ

家族信託は、◎認知症対策 ◎株式管理 ◎後継者へのスムーズな承継 ◎事業の継続性確保、といった事業承継の課題に非常に相性の良い制度です。
一方で、契約設計や税務判断など専門的な検討も必要となるため、 早めに準備を進め、専門家と連携しながら進めることが重要です。

事業承継に不安を感じている経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。事業承継は早めに準備するほど選択肢が広がります。